手しごとを伝える、ちいさな雑貨屋さん
〜長瀬荒物店

 「おはようございます!」 土曜朝6時の朝市会場でさわやかなあいさつをくれたのは、長瀬順子さんと、娘の和香子さん。八戸の朝市には欠かせない『しょいかご』や竹かごなどを扱う、『長瀬荒物店』の3代目と4代目です。八戸市中心街にあるお店におじゃまして、まったりと…。家族のこと、仕事のこと、お聞きしました。

「おはようございます!」 土曜朝6時の朝市会場でさわやかなあいさつをくれたのは、長瀬順子さんと、娘の和香子さん。八戸の朝市には欠かせない『しょいかご』や竹かごなどを扱う、『長瀬荒物店』の3代目と4代目です。八戸市中心街にあるお店におじゃまして、まったりと…。家族のこと、仕事のこと、お聞きしました。

関東大震災のあとで

カチ、コチ、カチ、コチ。ガラス戸を開けて店内に足を踏み入れると、時計の音が響きます。長瀬荒物店がある廿三日町は、オフィスビルやホテルが建ちならぶにぎやかな地区。でも、お店の中は、せわしない外の世界とは、時間の流れがちがっているような気がしました。出迎えてくれた順子さん、和香子さん母娘もまた、ゆったりと落ち着いていて、ホッとさせてくれる雰囲気の持ち主です。
 「もう、80年以上になりますよ。関東大震災のあとだから…」
 長瀬荒物店のはじまりは、大正末期にさかのぼります。順子さんの祖父にあたる初代直三さんはもともと宮大工。大正12年(1923)の関東大震災後、復興援助のため東京へおもむきました。ですが、足場から落ちてけがを負い、仕事を続けられなくなってしまいます。そこで直三さんが開いたのが、荒物屋。(『荒物』を辞書でひくと、『(粗末なもの、雑なものの意から)簡単なつくりの家庭用品『とあります。ほうき・ちり取り・ざる、洗濯板。ちょっとした生活用品が揃うなんでも屋が『荒物屋』なんですね) 長瀬一家はやがて廿三日町に落ちつき、もとは宿屋だったところに移り住んで、住居兼店舗にしました。
 「広い家でした。何度地震がきても、ビクともしないような」
 いまでいう古民家でしょう。頑丈な柱と梁をもつ家。順子さんも和香子さんも、そこで育ちました。こぢんまりとした現在のお店に改装したのは、10年前。でも、順子さんが懐かしそうに店内を見回すと、昔の風景が見えるような気がしました。
木工職人が作る丸椅子  時は流れ、順子さんの父、2代目・保太郎さんが85歳で亡くなったとき、長瀬荒物店は閉店の危機に陥ります。なにせ保太郎さんが店主をしていたころは、元旦以外は毎日開店。それも、朝7時ころから夜は8時まで。
 「近所の人が『あれない?』って買いに来る店だったんです。昔の食料品屋さんて、豆腐1丁からで買えたでしょう。あの雑貨バージョン」と順子さん。
 和香子さんも「商品にじかにマジックで書くんですよ。洗濯板に『せんたくいた』、サイズが大きかったら『大』(笑)。いいのかなぁって見てましたけど、お客さんが買ってくんですよね、それを」となつかしそうに振り返ります。

4代目、朝市へ

中心街さえ、かつてのようなにぎわいはなくなってきました。まちの片隅の荒物屋も、同じです。保太郎さんが遺した商品に値下げの札を張り、あるものは捨て…。閉店準備をしていたとき、和香子さんがふと、もらしました。
 「やめるのはやっぱり、寂しいなぁ…」 買いにくる人がいる限り、続けたい。こうして長瀬荒物店に4代目が誕生しました。順子さんは和香子さんを連れて仕入れに行き、品揃えも相談するようになります。
 そして和香子さんの発案で、去年の4月初旬からニュータウン朝市(※新興住宅地「八戸ニュータウン」で毎週土曜日に開かれる朝市)に出店するようになりました。
 「なにかの記事で『カフェ・ロボ』(※市中心街にあったカフェ。現在は閉店)のスタッフだった女の子が館鼻岸壁朝市に出ているのを知ったんです。若い人がやってるなら朝市もありかな、と思って」
 長瀬荒物店の歴史の中で、はじめての朝市出店。はじめは不安もありましたが、今では「いろんな人と知り合えたもんねぇ」と順子さんも楽しそう。売れすじは、草刈り用の鎌だそうです。

説明できるものだけを売る

草刈り鎌に、布ぞうり、ほうき、そして、かご、ざる、カトラリー、などなど。鎌ひとつとっても手打ち。直径26センチの小さなせいろは、職人さんにオーダーしたもの。長瀬荒物店に並ぶのは、“手しごと”で作られた品がほとんどです。ぴたりと閉まる竹編みのお弁当箱のふた、かごバッグの内側の凝った編み方…こんなディティールにも、作り手の息づかいを感じるものばかり。
 中でも竹編み製品は、おもに岩手県北の一戸町から買いつけています。
 「作業しているところを見ると、本当に…涙が出ますよ。すばらしくて」と順子さん。
 竹かごづくりは、まず材料集めからはじまります。やぶに分け入って竹を取り、皮をむき、均等に裂く。お湯につけて柔らかくして、やっと準備完了。全身を使って編んでいきます。
 「自然と『自分たちで説明できるものだけ置く』という流れになりましたね。当たり前かもしれませんが、作った人が分かるのは、売るときの自信になります」
 お話を聞いている間に、かごバッグを買って行く女性の姿がありました。八戸市のお隣、南部町から車を飛ばして来たといい、先代の時代からのお客さんです。
 「こういうものを置いてるところって、なかなかないんですよねぇ」
 名もない農家のおばあちゃんでも、時間と手間を精一杯注ぎ込んで作品を生むときは、職人と呼びたい。大正、昭和、そして今も。作り手に間近で見て、敬意を表しながら続いてきた長瀬荒物店だからこそ、買う人にも手しごとの“ものがたり”が伝わるのでしょう。長瀬荒物店のものがたりもまた、受け継がれていきます。

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