朝市ウォッチング

朝市と産直がつくる農業のミライ〜湊日曜朝市会

自分で値段を決める

日曜日ごとに数万人を動員する「館鼻岸壁朝市」湊日曜朝市会の上村隆雄会長は、年間1億9千万円を売り上げる農産物直売所「JAアグリマーケット八菜館」友の会会長でもあります。「作って、市場に出す」だけの農家が多いなかで、八戸市で農業を営む上村さんはみずから「売る」ことにこだわります。
 野菜や米を作る農家が収入を得るには、農協を通じて市場に出荷するのが一般的。上村さんも市場に出していますが、なかなか思うような値段がつきません。
「工業製品なら、いくらで販売するか決まってから、経費はいくら、人件費はいくらで合う、と計算して作るでしょ。でも農業は市場が値段を決めるから、農家の人はややもすると、一生懸命作るだけに専念するんですよ。一番金を産む、販売するってところは非常に弱いです」
 精魂込めて作った作物の値段くらい、自分で決めたい。そう考えた上村さんは15年ほど前から、川崎生まれの奥さん・昭子さんを連れて朝市に通い始めます。湊や片町、山手通りなど、八戸市内にはたくさんの朝市が毎日のように立ち、多くの人でにぎわいます。作り手のこだわり、おいしい食べ方…じかにお客さんと話すことで、売り上げが伸びたことはもちろん、仲間も増えていきました。
 3年前から産直「八菜館」の会長にもなりました。産直も朝市と同じ、作り手が決めた値段で農産物を売ることができる場所。頑張りがダイレクトにはねかえってくるステージです。農作物が作られ、売られ、食べられる過程のうちの「生産」までしか考えていなかった農家の人たちに「自分で売る」ことの良さ、楽しさを話し続けた結果、3年間で売り上げは3倍に伸びました。
 上村さんは言います。
 「農家は、自分の決めた値段で売れないところから抜けないとダメ。単価が安いなら規模を大きくしてまかなおうというのは、考え方が逆なんですよ」

“農家の誇り”という栄養素




意外な一面ですが、上村さんは東京時代、著名な写真家・森山大道のゼミで2年間、商業写真を学びました。若い農家には、年に1度は東京の空気を吸ってこい、と、いつも言っているそうです。
 「丸の内とかでパリッとしたサラリーマンなんか見たりすると、自分と比べて落ち込むかもしれないけど(笑)。そうじゃなくて、われわれが作っている農産物がここの人たちの食糧だ。プライドを持てと。ここで働く人たちの食糧を自分たちが作っているという思いで農業続けると、喜びも違うし、希望も違う。朝早くから夜遅くまでただただ苦しい仕事だと思うのとでは、全然違う」
 上村さんの野菜がおいしいのは、〝農家の誇り〟という栄養素みたいなものが、入っているからかもしれない。お話しを聞いていると、ふと、そんな考えが浮かんできました。

上村隆雄農園の商品は→こちら

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