写真とハンドメイド〜メゾン・ド・ファンファーレのひみつ

は じ め に

アートと呼ばれるものや、おしゃれなものには、魔力がある。というより、魔力があるものを「アート」とか「おしゃれ」って呼ぶのかもしれない。
 ハンドメイドで1点ものの、かわいい洋服や雑貨ってけっこう高かったりするんだけど、1食くらい抜いても…というときが、あるもんね。
おしゃれな人が、好きです。流行のものを身につけてる人、奇抜なファッションの人、というんでなしに、私はこれだ、と静かに意思表示しているような人。そういう人を見つけると、インタビューにかこつけて話をしたくなるのですが、今回はまさにそのパターンです。
 フォトグラファーの姉・中村佳代子さんと、服飾雑貨のデザインと制作を手がける妹・泰栄さんによるコラボレーション・ユニット「maison de fanfare」(メゾン・ド・ファンファーレ)。
 まず、このネーミングからかっこいいじゃないですか。 八戸中心街「はっち」の4階にある工房兼ショップに置いてあるものも本当にすてきです。
 鞄やヘアゴム、シュシュ、ピアス…女の子の好きなかわいい服や雑貨。これは泰栄さんの手によるもの。それから、壁には写真。どこかのファミリーの笑顔だったり、お店の商品だったり、いろいろですが、どれも「ぬくもり」を感じる。こっちは佳代子さんの作品です。「おしゃれなんだけどぬくもりがある」というのが、きっと「メゾン・ド・ファンファーレ」っぽさ。かっこいいけど靴擦れができちゃうピンヒールじゃなく、ふと気づくといつも履いてるフラットシューズみたいな、等身大の魅力です。
 魔法のような「メゾン・ド・ファンファーレ」の世界。中村姉妹のキラキラのひみつは、どこにあるのでしょう?

ふたりの道が八戸でひとつに


ロングヘアをきりっとひとつにまとめて、はきはきと話す、カメラウーマン佳代子さん(お姉さん)。
 隣には、ショートヘアに切れ長の瞳、控えめに言葉を選びながら話す、妹の泰栄さん。(話していると、じつはかなりアツイひとなのがわかってきます。)
 4歳違いのふたりは、ぜんぜん違うタイプに見えます。事実、子どもの頃は「ふたりで遊んだ記憶はあんまりない」と口を揃えて言います。

10代の頃の佳代子さんは、「とにかく八戸から出たかった」 ロンドンに憧れ、海外へ行くために英語を勉強してきました。しかし高校3年のサマースクールで、先生に尋ねられました。
 「あなたは英語を勉強して、何がしたいの? まずは何かやりたいことをひとつ、見つけなさい」
 答えにつまりました。
 そんな時、たまたまテレビでカメラマンのドキュメンタリー番組を観た佳代子さんは「これでいこう!」と、カメラマンになることを決意。迷いはまったくなかったといいます。 
 東京綜合写真学校に進学し、3年間、基礎から技術までみっちりと勉強。卒業する頃には、雑誌社から仕事を依頼されるようになりました。それから、某カメラメーカーで写真教室のアシスタントをへて、広告写真を手がけるスタジオに入ります。スタジオを訪れるのは、そうそうたる顔ぶれ。一流カメラマンのアシスタントとして、佳代子さんはさまざまな撮影にたずさわり、生涯の師匠とも出会いました。
 写真家・浅井佳代子さん。女性誌や書籍などで引っぱりだこのカメラウーマンです。
 「被写体のよさを生かして撮るっていうのがすごくて。いちばん影響を受けていますね」
 あこがれの師匠につけたことは、とても大きな財産になったようです。
 仕事は楽しいものの、寝ている時間以外はすべて仕事漬けの生活。いずれは独立を目指す佳代子さんは、しだいに将来について考えるようになり、1ヵ月ほど八戸に戻ることにしました。

泰栄さんは、「どうしても美術をやりたくて」と八戸市内の高校を卒業後、秋田県の公立美術短大に進学しました。
 大学で染め、織り、ガラス工芸を専攻した後、東京の舞台美術制作会社で縫製の仕事をはじめました。おもにテレビ番組の仕事が中心で、歌番組のステージ幕や小物などを手がけました。
 姉妹は目黒のマンションで共同生活をしていましたが、佳代子さんが八戸で見つけてきたフリーペーパーをきっかけに、ふるさとに帰ることを考え始めます。八戸市中心街に2011年2月オープン予定の八戸ポータルミュージアム「はっち」の「ものづくりスタジオ」で出店者を募集していると、そこには告知がありました。
 「八戸には帰りたいけれど、やりたい仕事がない」と悩んでいた佳代子さんにとっては、またとないチャンス。誘われた泰栄さんは、考えたすえに、ひとつの決断をしました。
 「私は美術の仕事がしたくて勉強してきたんですが、八戸にその土壌はないと思っていました。でも、はっちのような、文化を市がバックアップする施設ができることに、ものすごく驚いたんです。八戸でいろいろ発信できたら、こんなに素晴らしいことはないなって思いました」
 こうして中村姉妹のお店「メゾン・ド・ファンファーレ」が、八戸に誕生したのでした。

ひとを思いやる。好きなものは好きと言う。

ふたりのように自分の道を見つけてがんばっている人がいる一方で、自分の進む道が見えなくて悩んでいる人も、いっぱいいます。
 「その気持ちがまず、わかんないよね!」とバッサリの佳代子さん。サムライのように一刀両断したあとに、佳代子流〝自分探し〟モヤモヤ脱出法を教えてくれました。

 「私、撮影の前ってすんごい緊張するんですよ。どんな撮影でも。でも撮影することによって逆に緊張を解く、みたいなところがあって。もう人に会いたくないくらい疲れてる時でも、人に会うと気分が変わったりしますよね。ひとりだとモヤモヤするけど、誰かに会ったり話したりすることが、悩みとか、沈んだ気持ちをやわらげてくれる。ひとりじゃ抜け出せないし、誰かが解いてくれる。だから逆に、自分のことはどうでもいい。相手のことを考えるように生きていればいい」
 泰栄さんも言います。

 「私もけっこうモヤモヤ系だったので(笑)、気持ち、分かります。ですけど、姉とタッグを組んで仕事をし始めてから、姉の考え方を隣で見て、学んで…。自分のことよりも他人のことで必死になっている時って、全然もやもやしないって気づいたんです。友だちが悲しい思いをしていたら、寄り添ってあげるとか。自分よりも、友だちとか家族とかお客さんのために必死になっている時って、モヤモヤから抜けているんですよね。それは姉と仕事して学びましたね。本人の前で言うの、恥ずかしいんですけど(笑)。
 それに、ものすごい好きなものって絶対、誰でもあると思うんですよ。仕事だけじゃなくても、好きな音楽とか、芸能人だったりしてもよくて。まずは好きなものを情熱をもって、『これのここがよくてさ~!』とかって言っちゃえばいいんだと思いますね。好きなものを思いっきり言うってことから、絶対なにか始まっていくと思う。自分が本当に一番好きなものは、きっとあるはずなので。それを信じていけば大丈夫だと、思います」

ファンファーレ、第2楽章

オープンから1年半、順調に波に乗っているようすのふたりですが、本人たちは「まだまだこれから!」と感じているらしい。
 泰恵さんは「オーダーメイドで1着、作ってみたいです。今は衣装とか、ウエディングドレスとかいろんな注文をいただいていますが、難しそうな課題を乗り越えるのが楽しい。これ無理かもなって思ってもとりあえず受けて、やっちゃう!(笑)。私、ほんとに、縫うことぐらいしか特色がない人間なんですが(笑)、一生縫う仕事は続けたいと思っていますし、縫うことで貢献していきたいって、強く思うようになりました」
 佳代子さんは、「これから撮りたいのは、青森の働くひとたち。青森をPRするようなことをしたいって、昔から思っていたので。新しい視点で観光PRになる写真、撮りたいです。それから、写真展もやりたいですね」

一見すると、姉妹はあんまり似てないけれど、実はとてもよく似ているのかも知れません。

 かわいい顔してタフなところ。そして、気持ちがまっすぐなところ。お互いの道を、肩を並べて全力疾走しているようなふたりのストイックさが、お客さんに魔法をかける作品を作りだしているのでしょう。
 中村姉妹のひみつ、少しだけ分かりました。
 はっちのものづくりスタジオの出店は、新規起業支援という目的のため3年間の期限付きです。近い将来のお店のイメージに夢膨らませていると、ほら!ファンファーレ—その高らかな響きがきこえてきます。

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