うわさが生み出す『街』と『人』を繋ぐコミュニティーアート  〜山本耕一郎 (アーティスト)


山本耕一郎

アートって心が動くものだと思う

真夏の7月後半、建設中のはっちの仮囲いに突如現れた黄色い吹き出し。三社大祭でのPR行進。
 いずれも書かれているのは○○らしい――という街のうわさ。『へぇ~』と思ったり、二ヤリとしたり…ついつい立ち止まり読んでしまう。
 うわさの仕掛け人は、アーティスト山本耕一郎(やまもとこういちろう)さん。
 街なかの小さな情報から店舗のプライベートな情報を吹き出しで展示する【八戸のうわさ】を7月末から9月3日まで、やぐら横丁にあるはっちラボから発信していた。
 「いつも通っている街や店のコアな情報、例えば店主の趣味だとか、ハマっていることとかを聞いて、吹き出しにして出してあげる。それも、断定した言葉じゃなくて『…らしい』という曖昧なうわさの表現で。そのうわさから驚きや共感、親近感が生まれて関心を持つきっかけになると思うんです」と話す山本さんの後ろには、吹き出しを付けた人々の写真が目いっぱい貼られていた。
 うわさは山本さんが直接店へ出掛けて取材したものや、出会った人々との会話がネタ元。
 見慣れた街にまだ知らないことが溢れていることを実感すると同時に、もっと知りたい欲求が生まれ会話が生まれてくる。
 「アートって堅苦しいものじゃなくて、もっと身近なものだと思うんです。形じゃなくても何かを通して『面白い』とか『楽しい』と思えること、その繋がりや心が動くものがアートだと思うんです」

今のスタンスになるまで、山本さん自身もアートとは何か?ともがいた時期があるという。
 その世界をもっと突き詰めようと20代後半に渡英、『ロイヤルカレッジ・オブ・アート』で学んだ。
 その間、『ジャーウッドプライズ』という5年に一度のコンペの最終選考の8人に入り、年中どこかで個展が開かれているという状況にまでなった。
 しかし、鑑賞者との距離感や芸術界の狭さに疑問を感じ、『モノを創るより、人と触れ合うこと』を表現することへシフトしていく。
 それは異国での生活で、仲間に技術を教えると必ずお礼や困った時は手助けしてもらうなど、人との交わりの積み重ねから気付かされたと言う。
 また、もっと多くの人に作品を感じて欲しい。人と人、街と人、全体がつながる装置を仕掛けてみたいと考えた頃、日本は面白いと思うようになり33歳で帰国。
 『かわさき現代彫刻展』を始めとする様々なアートイベントに参加し、『のぼりとまちなかアートプロジェクト』で『のぼりとのうわさ』を企画実施した。
 その活動がまさにうわさを呼び、日本各地で『〜のうわさ』が行われるようになった。

目に見えない繋がりを生み出したい

『八戸のうわさ』は日々変化し、広がりを見せていた。
 中心街の店先の吹き出しの数も増え、吹き出しを付ける人の年齢層もまちまち。
 ハチノヘホコテンの時には吹き出しのうわさを見ながら、笑顔で話す人の輪と吹き出しを付けた吹き出し族が大量発生した。
 「僕は街の人たちの扉をちょっと開けてみただけ。そこから目に見えない繋がりを生み出したいんです。形には残らないけど、思い出や、記憶の残像に残ればいいかなと」
 普通の生活の中にあるアート。それは『面白い』とか『楽しい』ことをありのままに感じること。
 『なんか、山本耕一郎さんのプロジェクトってワクワクするらしいよ!』
 そんな言葉があちこちから聞こえてきそうだ。次回は11月に来八の予定とか。
 新しいうわさが待ち遠しい。

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